Get Your Wings / Aerosmith
1.Same Old Song And Dance
2.Lord Of The Thighs
3.Spaced
4.Woman Of The World
5.S.O.S.(Too Bad)
6.Train Kept A Rollin'
7.Seasons Of Wither
8.Pandora's Box
Steven Tyler : lead vocals and harmonica.
Joe Perry : electric, 12 string, slide and acoustic guitars.
Brad Whitford : electric guitars.
Tom Hamilton : electric bass.
Joey Kramer : drums and percussion.
Producer : Ray Colcord and Jack Douglas.
Executive Producer : Bob Ezrin
1974 CBS Inc.
2.Lord Of The Thighs
3.Spaced
4.Woman Of The World
5.S.O.S.(Too Bad)
6.Train Kept A Rollin'
7.Seasons Of Wither
8.Pandora's Box
Steven Tyler : lead vocals and harmonica.
Joe Perry : electric, 12 string, slide and acoustic guitars.
Brad Whitford : electric guitars.
Tom Hamilton : electric bass.
Joey Kramer : drums and percussion.
Producer : Ray Colcord and Jack Douglas.
Executive Producer : Bob Ezrin
1974 CBS Inc.
エアロスミスのセカンド・アルバム「Get Your Wings」が、実は彼らの日本でのデビュー盤である。しかもアメリカ本国では1974年に発表されていながら、日本で発売されるのはその翌年、1975年になってからのことだった。
エアロスミスは1973年にデビューしたが、初めは人気も評価も芳しくなかったという。地道に精力的に展開したアメリカ国内でのコンサート・ツアーが奏功し、いよいよ全米的な人気に火がつき始めたのがちょうど1975年頃のことだ。1975年に発表された彼らのサード・アルバムも、そうした彼らの人気の上昇を支えたものだった。
1975年頃まで日本ではエアロスミスの名はほとんど知られてはいなかった。当時はまだ一般の音楽ファンが海外の音楽事情をリアル・タイムで知り得ることはほとんどできない時代だったから、アメリカで注目を集めつつある新人バンドの情報など、音楽メディアが取り上げてくれるまでは知ることも簡単ではなかった。エアロスミスもデビュー直後はアメリカ本国でもそれほど注目されていたわけではなく、その頃にはまさか後々までロック・シーンに君臨するようなバンドに成長するとは誰も予想していなかっただろう。だから当初は日本のレコード会社も日本での発売を見送っていたのではないだろうか。デビュー直後の彼らがアメリカの評論家たちに酷評されていたのも悪影響を与えたのかもしれない。1975年頃になってエアロスミスの人気がアメリカで徐々に上昇してゆくと、それを受けて日本でも彼らのレコードの発売に踏み切った、というのが大方の経緯なのではないだろうか。その時、日本でのデビュー盤に選ばれたのが、1974年に発表されていた彼らのセカンド・アルバム「Get Your Wings」だったのだ。
「Get Your Wings」によって日本でのデビューを果たしたエアロスミスだったが、これによって日本での人気に一気に火がついた、というわけではない。1970年代初期のありとあらゆるスタイルのロック・ミュージックが花開いた時期を過ごしてきたロック・ファンにとって、エアロスミスの「Get Your Wings」はそれほど新鮮さを感じるものではなかっただろうし、また注目に値するほどのオリジナリティが感じられたわけでもなかったような気がする。デビュー直後のエアロスミスはアメリカでは「ローリング・ストーンズの亜流」と酷評されたというが、「まぁ、それも的を射ているかも」と思ったというのが、このアルバムに対する感想の正直なところではなかったろうか。
「Get Your Wings」の日本発売に併せて、「Same Old Song And Dance(邦題を「エアロスミス離陸のテーマ」という)がシングル・カットされ、これが日本での「デビュー曲」となったわけだが、ほとんど注目を集めることもなく、ヒット・チャートに登場することもなかった。当時を知らない若いファンの中には「Get Your Wings」の中からシングル曲がリリースされていたことさえ知らない人がいるのではないだろうか。日本でようやくエアロスミスの人気が本格的なものになるのは、「Get Your Wings」の発売から間もなく、1975年の夏になってサード・アルバムの「Toys In The Attic」が発売され、シングルとなったタイトル曲の「Toys In The Attic(闇夜のヘビー・ロック)」がそこそこのヒットとなり、さらに同年秋にようやくファースト・アルバムも発売されて、その中の収録曲「Dream On」が大ヒットとなって注目を集めるようになるまで、少しばかり待たなくてはならない。
そんなふうだったから、この「Get Your Wings」は、常に数多く発売されるさまざまなロック・アルバムのひとつとして、特に注目を集めることもなくその中に埋もれてしまった観がある。ほとんどのロック・ファンも「評論家」諸氏も、このアルバムは取り立てて言うほどの魅力も欠点もない、いわば「平均点」としての評価を与えていたのではないか。
エアロスミスの音楽スタイルは、いわゆる「アメリカン・ハード・ロック」と呼ばれるものだと言ってよいだろう。今ではその呼称にまったく違和感がないが、1975年代半ばの当時、「アメリカン・ハード・ロック」と言えば、グランド・ファンク・レイルロードやテッド・ニュージェントらの奏でる大音量で豪放なロックのことを指すのが一般的だった。通常は「サザン・ロック」と呼ばれるレーナード・スキナードなども、その豪放でハードなロック・サウンドは「アメリカン・ハード・ロック」の範疇に考えてもよいものだっただろう。フェリックス・パパラルディ率いるマウンテンなどは音楽理論に根ざした理知的な雰囲気が英国ロックに通じるところもあったが、基本は豪放な「アメリカン・ハード・ロック」だった。「アメリカン・ハード・ロック」というものが、そうしたバンドたちのスタイルを指す当時の状況の中にあって、そこへ現れたエアロスミスの、この「Get Your Wings」を耳にしても「アメリカン・ハード・ロック」としては少々違和感を感じるものではあった。確かにラフでワイルドなロックン・ロールではあるようだが、それまでの他の「アメリカン・ハード・ロック」のバンドたちに共通する骨太で豪快な「大陸的な」スケール感といったものには、少々欠けるように聞こえたものだった。楽曲そのものもシンプルでポップで聞きやすく、どことなくこぢんまりとまとまってしまっているようにも思えたものだったのだ。当時の状況の中にあっては、このアルバムの中に潜むエアロスミスの本来の姿や、「将来性」というものに気付くのは、やはり難しかったような気がする。
そのような印象が先行したためか、後にエアロスミスが圧倒的な人気を得るようになっても、「Get Your Wings」は野性味溢れるデビュー・アルバムと完成度を高めたサード・アルバムとの狭間の、特筆するほどではない平均的な作品というイメージが続いたように思える。今でも、エアロスミスの数々の作品群の中で「Get Your Wings」が突出した傑作であるとは言い難いだろう。この「Get Your Wings」がなぜそのような印象のアルバムになったのか。スタジオ録音によるアルバム作品はライヴ・パフォーマンスとは異なるものとして、ポップ・ソングとしての洗練を意識した故に、彼らの本来の持ち味であったライヴ演奏の「熱気」というようなものを伝えることができなかったという見方もできるだろう。それは、あるいはプロデュースを担当したジャック・ダグラスの思惑であったかもしれない。デビュー間もない、若い彼らは、ライヴ演奏で展開する熱気に満ちた緊張感をスタジオ録音の際に再現することができなかったという見方もできるかもしれない。地道なコンサート活動によって経験を積み上げてきた彼らにとって、聴衆の存在は決して小さなものではなかったろう。収録された「Train Kept A Rollin'」はヤードバーズの超有名曲だが、その後半部に聞かれるライヴ演奏の圧倒的な熱気は、そうしたことを示唆するものではないか。
誤解の無いように断っておくが、この「Get Your Wings」がエアロスミス本来のワイルドな演奏の魅力を伝えていない駄作だと言うつもりはない。エアロスミスの魅力がライヴ演奏に於けるラフでワイルドなロックン・ロールの熱気にあるからと言って、スタジオ録音のアルバム作品がそれを再現しなくてはならないという理由はない。こぢんまりとまとまっているような印象も、実は少々散漫で荒っぽい作りのファースト・アルバムと比較すれば、より洗練され、バンド自体がまとまって演奏がタイトになった結果でもあるのだ。必要以上の昂奮を伴わない、敢えて言えば「醒めた」演奏であるからこそ、却って彼らの楽曲そのものの魅力を浮き上がらせているという点も無視できない。「Same Old Song And Dance」にしても「S.O.S.(Too Bad)」にしても、彼らの楽曲は少しばかりポップで親しみやすく、その中にラフなロックン・ロールの魅力を垣間見せる。恒常的に聞かれることを前提とした「作品」として、その演奏を封じ込めた「録音物」であるなら、それは良いことではないのか。
このアルバムが発表された1974年から1975年にかけての時期、ロック・ミュージックはありとあらゆる可能性を試行し、さらに新たな方法論を求めて足掻いているようにも見えた。「何か新しいもの」を提示しなくては、それだけで一蹴されてしまうような風潮さえあったのだ。当時、彼らは明らかに「新しいタイプのアメリカン・ハード・ロック」だったのだが、このアルバムによって名も知らぬアメリカの新人バンドを紹介された日本のロック・ファンにはそんなことはわからなかった。そのような中で、このアルバムはあまりに過小評価されてしまったのではないか。あれから三十年ほども経った今になって、そんなことも思ってみたりする。
1980年代には一時期低迷していたエアロスミスだったが、その後に「復活」、二十一世紀になった今もロック・シーンに君臨し続けている。「復活」後に彼らを知った若いファンに、この「Get Your Wings」がどのように評価されているのか、よくは知らない。エアロスミスの数々のアルバム作品の中では、確かに突出した傑作というわけではない。しかし、「駄作」や「凡作」と不当評価されるアルバムでもあるまい。当時を知る身で、今になってこのアルバムを聴くと、懐かしさも手伝って耳に心地よく響く。「やっぱり、けっこういいよね」などと思ってしまうのだ。「名盤」ではないが、1970年代のロックを愛する人々にとって、そしてまたエアロスミスのファンにとって、「Get Your Wings」もまた愛すべき一枚であるように思える。
余談だが、アルバム・ジャケットに描かれた「A」の文字と翼をあしらったシンボル・マークが、当時も話題になったものだが、ちょっと卑猥だ。
This text is written in May, 2003
by Kaoru Sawahara.
by Kaoru Sawahara.