Greenslade
1.Feathered Friends
2.An English Western
3.Drowning Man
4.Temple Song
5.Melange
6.What Are You Doin' To Me
7.Sundance
Dave Greenslade : keyboards.
Dave Lawson : keyboards and vocals.
Tony Reeves : bass guitar and double bass.
Andrew McCulloch : drums and percussion.
Produced by Tony Reeves, Dave Greenslade and Stuart Taylor.
1973 WEA International inc.
2.An English Western
3.Drowning Man
4.Temple Song
5.Melange
6.What Are You Doin' To Me
7.Sundance
Dave Greenslade : keyboards.
Dave Lawson : keyboards and vocals.
Tony Reeves : bass guitar and double bass.
Andrew McCulloch : drums and percussion.
Produced by Tony Reeves, Dave Greenslade and Stuart Taylor.
1973 WEA International inc.
ロジャー・ディーンのイラストが大好きだ。いきなり話が横道に逸れてしまって申し訳ない。ロジャー・ディーンの描くイラストの、その作品世界の醸し出す幻想的なイメージが大好きで、画集まで買い求めてしまった。「プログレッシヴ・ロック」と呼ばれるスタイルのロック・ミュージックを愛する人なら、ロジャー・ディーンの名を知らない人はおそらく皆無だろう。と言うより、同じようにそのイラストに強く心惹かれている人はかなり多いのではないだろうか。イエスの作品群のジャケットを筆頭に、彼が担当したジャケットは数多い。「プログレッシヴ・ロック」の分野に限らず他のスタイルの音楽作品のジャケットも担当しているのだが、やはりその作品の持つイメージのせいか、ロジャー・ディーンのイラストと「プログレッシヴ・ロック」とは切り離せないもののような気がする。
そのロジャー・ディーンの作品によるレコード・ジャケットの中でも、おそらく屈指のものではないかと思うのが、「Greenslade」のファースト・アルバムのジャケットだ。水を湛えた洞穴のような場所に光が射し込んでいる。頭巾を被った、人間であるのかどうかもわからない何者かが、その光を浴びている。幻想的な異世界を描いたそのイラストはロジャー・ディーンの真骨頂とも言えるものである気がする。緑を基調にした色彩は「Greenslade」の「Green」を意識したものか。
このロジャー・ディーンのイラストに飾られた作品は「Greenslade」というバンドのファースト・アルバムだ。「Greenslade」はDave GreensladeとDave Lawson、Tony Reeves、Andrew McCullochの四人のメンバーによるバンドで、Dave Greensladeの「Greenslade」をバンド名にしていることから考えても、Dave Greensladeを中心にしたバンドだったのだろう。Dave Greensladeは1960年代に活動していたジャズ・ロック・バンド「Colosseum」のメンバーだったミュージシャンで、Colosseumが解散した後に自身のバンド「Greenslade」を結成して活動を開始した。ベース奏者のTony ReevesはColosseum時代からの盟友だから、想像だがColosseum解散の後に「一緒にやらないか」と話がまとまったものなのかもしれない。ドラム奏者のAndrew McCullochはキング・クリムゾンに在籍した経験を持つミュージシャンで、キーボード奏者のDave Lawsonは「サムライ」などのバンドでの経歴を持つミュージシャンであるらしい。Dave Greensladeもまたキーボード奏者だから、「Greenslade」というバンドはギター奏者のいない、ツイン・キーボードのバンドだったことになる。1990年代の初めにCD化された際の松本昌幸氏の解説に依れば、Greensladeは当初はギタリストを含む四人編成を予定していたらしく、こうしたギタリスト不在のツイン・キーボード構成のバンドになったのは偶発的な結果だったのだという。
ドラムとベースのリズム楽器以外はすべてキーボードという、このバンド編成がGreensladeの音楽を特異なものにしているのは確かだ。キーボードを主体にしたロック・ミュージックと言えばEL&Pの名がすぐに思い浮かぶが、白熱した演奏によるロック・ミュージックのダイナミズムに重きを置いていたEL&Pと比べれば、Greensladeはバンド・アンサンブルに重きを置いて音楽世界の創造を目指していたようにも思える。いやもちろんGreensladeの演奏がつまらないというのではない。じっくりと聞き込めばメンバーそれぞれの演奏ももちろん楽しめるものなのだが、それよりもGreensladeの音楽の魅力は彼らが造り出す音楽の叙情性の中に匂い立つ色彩の全体像の中にこそあるような気がする。
彼らのサウンドの要となっているのは言うまでもなく、ふたりのDave、Dave GreensladeとDave Lawsonが操るキーボード群だ。ピアノなどの演奏も聞くことができるが、中心にあるのはハモンドとメロトロンの響きだと言っていい。それらが造り上げ、織り上げてゆく音楽は、紛れもなく1970年代初めの「プログレッシヴ・ロック」の世界だ。ジャズとクラシックの要素を巧みに取り込みながらロックのイディオムの中に結実させようとしている。あれから30年以上を経過した今となっては懐かしさが先に立ってしまうが、だからこそ、当時の「プログレッシヴ・ロック」を愛したファンにとっては代用の利かない音楽であり続けるのは確かだろう。
Greensladeの音楽は総じて穏やかで叙情的な味わいのあるものだ。少しくすんだような色彩の、くぐもった音像の中にリリシズムに溢れた音楽世界が現出する。徒に演奏技術に頼ることのない音楽は、聴き手に過度な緊張感を強いることもない。ロック・ミュージックとしての躍動感を保ちつつもアグレシッヴに過ぎず、前衛的な難解さを伴ってもいない。ハモンドとメロトロンを多用したサウンドは幻想的な色彩を帯びてはいるが、過度に映像的であったりもしない。ジャズ的な要素も感じさせる演奏は時に熱を帯びるが、しかし音楽の全体像は抑制の効いた知的なスリルの中に叙情と哀感とを滲ませながら展開している。
このアルバムに収録されている楽曲は全部で7曲、その内の「Feathered Friends」、「Drowning Man」、「Temple Song」、「What Are You Doin' To Me」がヴォーカル曲で、残りの「An English Western」と「Melange」、「Sundance」がインストゥルメンタル曲だ。ふたりのキーボード奏者の演奏に主体を置く音楽は、ヴォーカルを含む曲もインストゥルメンタル曲もまったく違和感無く同じ音楽世界を形作っている。ヴォーカルはDave Lawsonが担当しているようだ。決して上手い歌唱とは言えないが、ときおりデイヴ・カズンズの歌唱を彷彿とさせるところもあり、味わい深い歌声で彼らの音楽世界に似合っている印象だ。
オルガンの演奏を主体にしたイントロから幕を開ける「Feathered Friends」はやがてスローな曲調となってヴォーカルが加わってリリカルな世界が広がってゆく。重厚でクラシカルな音像の中に繊細な哀感を滲ませ、メロトロンの響きが幻想的な色彩を加える。この楽曲の印象がGreensladeの音楽の特徴をすべて物語っていると言ってもいい。7分近くにもなる楽曲は特に劇的な展開を見せるわけではないのだが、奏でられる音の響きひとつひとつに魅力があって飽きない。
「An English Western」は3分半ほどのインストゥルメンタルの楽曲だが、オルガンを主体にした演奏は小粋な小品という感じだ。時にクラシカルに、時にジャズっぽく、時にブルージーに、さまざまな表情を見せる曲想が面白い。
クラシカルな印象の「Drowning Man」は哀感の漂う美しい楽曲だ。ヴォーカル部分ではスローな曲調だが中盤ではリズミカルな演奏が展開する。中盤では少しばかりコミカルな印象を与える演奏も聞かれて面白いが、やはりヴォーカル部分の静けさの中に幻想的な色彩を帯びた曲想、霧の中に浮かび上がるような音像が魅力的だ。
「Temple Song」は3分半ほどの「小品」だが、少しばかり中国的なものを意識したメロディが印象に残る。エレクトリック・ピアノの響きが印象的で、夢想的な、とても美しい楽曲だ。
インストゥルメンタル曲の「Melange」ではTony Reevesのベースが小気味よく「歌う」。メロトロンが幻想的な味わいを加えている。演奏時間も7分半ほど、なかなかスリリングな展開を見せる、聴き応え充分な楽曲だ。
「What Are You Doin' To Me」はアルバム中でも最もロック・ミュージック的な躍動感を感じさせる楽曲だろう。メンバー全員の演奏が一塊りになって突き進むような感覚が印象的だ。
最後に収録された「Sundance」は9分近くになる「大作」で、インストゥルメンタルながらドラマティックな展開を見せる楽曲だ。哀感を含んだリリカルなピアノ演奏から始まり、重厚なオルガンの演奏が展開されてゆく。途中ではオルガンのインプロヴィゼーション・プレイなども含み、メロトロンによる幻想的な哀感も滲ませつつ、白熱した演奏が続いてゆき、やがてまたリリカルなピアノ演奏へと戻って幕を閉じる。
アルバム中にはさまざまな曲想の楽曲が収録されているが、全体としての統一感、全体を覆う同じ色彩感に彩られて散漫な印象はまったく無い。ジャズ・ロック的な演奏形態ながらクラシカルな美しさを備えた端正な音楽だと言っていい。しかし否定的な見方をするなら、そうした端正な佇まいがスケール感を僅かに狭め、破天荒なスリルを失わせていると考えることもできるだろう。そうしたところが「プログレッシヴ・ロック」としての先鋭さを鈍らせ、当時のシーンの最前面に立つことを妨げていたのかもしれない。しかしそれでも、Greensladeの音楽の持つ美しさ、キーボードを主体にした「プログレッシヴ・ロック」としての在り方は充分に魅力的だ。Dave GreensladeとTony ReevesのColosseumでの経験、そして他のメンバーふたりのそれぞれの経験がここに結実して、このような叙情的で端正な美しさを備えた音楽が生まれたのに違いない。
Greensladeというバンドは、1970年代初期当時、決して人気のあったバンドとは言えない。Colosseum出身者によるバンドとは言え、特に日本ではColosseumそのものがマニアックな存在だったと言えたし、Greensladeもまた同じような位置にいた。キング・クリムゾンやピンク・フロイド、イエス、EL&Pらが圧倒的な人気を誇る中で、Greensladeはどちらかと言えば「二番手」的な存在だったというのが正直なところだ。個人的にも当時Greensladeの音楽を熱心に聴いていた記憶はない。そこまで「手が回らなかった」のだ。1990年代になってようやくGreensladeの4枚のアルバムがCDで復刻された際に喜んで買い揃えたことを憶えている。現在では1970年代当時の「プログレッシヴ・ロック」を紹介する書籍などで重要なバンドのひとつとして取り上げられているのを目にしたりする。1970年代当時を知らない若いファンにもかなりその名が知られているらしいことを知って、少しばかり複雑な思いがある。
それはともかく、1970年代初期の「プログレッシヴ・ロック」を愛するファンにとって、Greensladeが「重要な」バンドであることは確かだろう。特にキーボードの演奏を主体にしたロック・ミュージックを好む人たちにとって、このGreensladeのファースト・アルバムは必聴必携の作品だと言っていい。Greensladeはバンドとして4枚のオリジナル・アルバムを残しているが、このファースト・アルバムを最も好きなアルバムとして挙げるファンは少なくない。中には1970年代「プログレッシヴ・ロック」の中でも十指に入る、いや五指に入ると言うファンさえあるほどだ。ギター・ミュージックとしてのストレートなロックを愛する人に薦めるには躊躇いがあるが、1970年代の「プログレッシヴ・ロック」、特にキーボードを主体にした「プログレッシヴ・ロック」を愛する人には躊躇いなくお薦めする。一般には「ロックの名盤」として扱われることはほとんど無いが、こうした音楽を好む人たちにとっては「傑作」であると言って差し支えない。
This text is written in April, 2005
by Kaoru Sawahara.
by Kaoru Sawahara.