The Secret Sun / Jesse Harris & The Ferdinandos
1.Just A Photograph
2.The Secret Sun
3.Long Way From Home
4.All My Life
5.What Makes You (featuring Norah Jonrs)
6.How?
7.You Were On My Mind
8.If You Won't
9.The Other Road
10.The Midnight Bell
11.Roberta
12.You, The Queen
13.Dancer In The Dark (Bonus Track)
Jesse Harris : vocals, acoustic guitar
Tony Scherr : electric and acoustic guitars, background vocals
Tim Luntzel : bass
Kenny Wollesen : drums, percussion, vibraphone, marimba
with
Norah Jones : vocals and piano(5), background vocals(8)
Chris Brown : organ(4,7)
Chiara Civello : background vocals(9)
Roberto Rodriguez : additional percussion(9)
Rob Burger : piano, accordion(13)
Produced by Jesse Harris and Tony Scherr
2003 The Verve Music Group
2.The Secret Sun
3.Long Way From Home
4.All My Life
5.What Makes You (featuring Norah Jonrs)
6.How?
7.You Were On My Mind
8.If You Won't
9.The Other Road
10.The Midnight Bell
11.Roberta
12.You, The Queen
13.Dancer In The Dark (Bonus Track)
Jesse Harris : vocals, acoustic guitar
Tony Scherr : electric and acoustic guitars, background vocals
Tim Luntzel : bass
Kenny Wollesen : drums, percussion, vibraphone, marimba
with
Norah Jones : vocals and piano(5), background vocals(8)
Chris Brown : organ(4,7)
Chiara Civello : background vocals(9)
Roberto Rodriguez : additional percussion(9)
Rob Burger : piano, accordion(13)
Produced by Jesse Harris and Tony Scherr
2003 The Verve Music Group
彼の音楽は、夏の終わりの匂いがする。暑さの盛りを過ぎて、そろそろ風の中に秋の気配を感じるようになった頃の、街路の風景が思い浮かぶ。街路は都会ではない。都会からそれほど離れていない、小さな田舎町といったところか。人々の行き交いも絶えた午後の街路、澄んだ青空の下を乾いた風が吹きすぎてゆく。そんなイメージがある。
お恥ずかしい話だが、ジェシー・ハリスというシンガー/ソングライターを知らなかった。ノラ・ジョーンズが歌った「Don't Know Why」の作者として、彼女がグラミー賞を受賞してようやく知った。ノラ・ジョーンズがグラミーを受賞すると、当然のようにその作者としてジェシー・ハリスも注目を浴び、日本でもノラの歌声と並んでジェシーの歌声がFMなどでも聞かれるようになって、それで初めて耳にしたのだ。
初めて耳にしたジェシー・ハリスの歌声とその音楽にすっかり心惹かれてしまった。今でもこのような音楽をやっているミュージシャンがいるのだということを知って、そしてこのような音楽をやっているミュージシャンがグラミー受賞曲の作者として脚光を浴びることになって、とても嬉しく思ったものだ。このようなスタイルの音楽は今ではアメリカのポップ・ミュージック・シーンの片隅に追いやられてしまったように感じていたからだ。その音楽は懐かしい旧友との再会のように暖かく心に染みた。
その音楽スタイルの印象から、ジェシー・ハリスというシンガーはアメリカ南部か西海岸の人かと思ったが、実はニューヨーク出身であるらしい。そのことが少し驚きだった。少年時代にはピアノを習い、17歳の頃にボブ・ディランの触発されてギターを始めたという。1995年に「Once Blue」というバンドを結成してデビューするが間もなく解散、その後に「The Ferdinandos」というバック・バンドを従えてソロ活動を開始し、この「The Secret Sun」が「Jesse Harris & The Ferdinandos」としての4作目になるらしい。
「アメリカ南部か西海岸の人かと思った」のは、彼の音楽が往年の「ウエスト・コースト・サウンド」やアメリカ南部のサウンドを思わせるものだったからだ。カントリー・ミュージックやブルースなどの、いわゆるアメリカン・ルーツ・ミュージックに根ざした音楽性が、彼の音楽には濃厚に感じられた。朴訥とさえ言えるようなジェシー・ハリスの歌声をアコースティックな響きを主体にした演奏が支える音楽は、素朴で純粋な魅力に溢れていた。それは1970年代初期に一世を風靡したウエスト・コーストのシンガー/ソングライターの音楽を彷彿とさせて、暖かく心に響いた。
もちろん彼の音楽が懐古趣味的な時代遅れの音楽だというわけではない。彼の音楽はアメリカン・ルーツ・ミュージックに根ざしていながらも、往年のカントリー・ロックなどよりは遙かに現代的に洗練されており、土臭さの中にほんの少し都会的な洒脱さも覗く。
収録された楽曲は、概ねジェシー・ハリスの弾き語り風の、アコースティック・ギターの演奏をバックに静かに歌われるものが多い。しっとりとした曲調は内省的な傾向も強いが、ゆったりとして軽やかでもある。ジェシー・ハリスの歌声は少し「鼻にかかった」ような声質で、決して美声というわけではないし、また歌唱そのものも技巧的にとても優れているというわけでもないのだが、それがかえって素朴で実直な印象を醸し出している気がする。バンドの演奏も彼の歌声に呼応するかのように素朴で実直な印象で、抑制の効いた、良い味わいがある。
エレクトリック・ギターを前面に据えてのバンド演奏を主体にした楽曲もなかなかいい。「All My Life」などは力強く雄大な印象で、往年のウエスト・コーストのカントリー・ロックなどの好きな人には嬉しいものに違いない。軽やかな「You Were On My Mind」もいい。広大なアメリカの大地をゆったりと車で走って行くような、そんな印象が心に浮かぶ。そんな印象はまさにアメリカン・ミュージックの王道という気もする。 楽曲によっては少しばかりジャズ的な雰囲気を漂わせるものもあって、これもなかなか味がある。「What Makes You」ではノラ・ジョーンズが客演しており、これもこのアルバムの中での「聴きもの」と言ってよいだろう。
「Roberta」はトラディショナル曲であるらしいが、その他の曲はすべてジェシー・ハリスの作詞作曲である。何しろ彼の書く楽曲そのものの魅力が素晴らしい。どの楽曲もそれぞれに味わいがあって聴き応えがある。ノラ・ジョーンズが歌ってグラミーに輝いた「Don't Know Why」も素晴らしい曲だった。「Don't Know Why」がグラミーを獲得したことは、彼のソング・ライターとしての並々ならぬ資質の証明だっただろう。「Don't Know Why」をジェシー・ハリス自身が歌ったヴァージョンも、ノラ・ジョーンズの歌唱によるものとはまた別の味わいがあって素晴らしかった。良い楽曲を優れたシンガーが歌うというのは素晴らしいものだが、その楽曲の作者が素朴な歌声で聴かせるのもまた素晴らしい。このジェシー・ハリスのアルバムは、そうした魅力、優れた楽曲を作者自らが歌うことによって生まれる魅力というものを見事に形にしているように思える。
ジェシー・ハリスの音楽は総じてゆったりとたゆたうような雰囲気の中に繊細な情感を滲ませる。楽曲によってはカントリー風であったり、ジャズ風であったり、ロック風であったりするが、すべてはジェシー・ハリスの音楽として同じ色調の中に統一されて彼の世界を形作っている。彼の音楽は殊更に大仰であることもなく、控えめであるとさえ言えるし、その素朴さは自らの歌を聴き手に届けようという真摯な実直さに溢れている。何ら奇をてらうことなく、時代に阿ることもなく、ただ自らの想いに従って歌を書き、それを歌うということの潔さがある。
このアルバムを買い求めてから、すでに数え切れないほど聴いた。その音楽は往年のアメリカン・ミュージックを彷彿とさせるものではあるが、そのようなものへの懐かしさだけではない。けっきょくはジェシー・ハリスというシンガー/ソングライターの書く楽曲、そして彼の歌声とそれを支えるバンドの演奏による音楽そのものに、普遍的な魅力があるからだろう。地味で目立たないかもしれないが、穏やかで真摯な歌心に溢れた、素晴らしい作品である。
This text is written in June, 2004
by Kaoru Sawahara.
by Kaoru Sawahara.