Stray
1.All In Your MInd
2.Taking All The Good Things
3.Around The World In Eighty Days
4.Time Machine
5.Only What You Make It
6.Yesterday's Promises
7.Move On
8.In Reverse / Some Say
Steve Gadd : vocals.
Derek Bromham : guitar.
Garry Giles : bass.
Richard Call : drums.
Produced by Hugh Murphy.
1970 Sanctuary Records Group Ltd.
2.Taking All The Good Things
3.Around The World In Eighty Days
4.Time Machine
5.Only What You Make It
6.Yesterday's Promises
7.Move On
8.In Reverse / Some Say
Steve Gadd : vocals.
Derek Bromham : guitar.
Garry Giles : bass.
Richard Call : drums.
Produced by Hugh Murphy.
1970 Sanctuary Records Group Ltd.
「Stray(ストレイ)」と名乗るイギリスのハード・ロック・バンドのデビュー・アルバムが日本で発売されたのは1973年の夏頃のことだ。LP時代にはB面の冒頭を飾った「Only What You Make It」が「炎の世界」という邦題が付けられてデビュー・シングルとして発売され、1973年の秋頃、ちょっとしたヒットになった。「ハード・ロック」が隆盛を迎え、広く受け入れられていた時代だったとは言え、このようなハードでヘヴィなギター・リフが響き渡る「ハード・ロック」の楽曲がよくヒットしたものだと思う。「ハード・ロック」にはあまり興味のない、一般的な「ポップス・ファン」の耳には、きっと騒音のような音楽に聞こえたことだろう。しかし「ハード・ロック」の好きなロック・ファン、特に英国の「ハード・ロック」を愛するファンにとって、この「炎の世界」は興奮を誘って余りある、「血が騒ぐ」ような、魅力的な楽曲だったことは間違いない。
当時、ストレイは「ブリティッシュ・ハード・ロックの期待の新人」というような形容によって日本に紹介された。しかし実は1973年に発売されたこのデビュー・アルバムは英国本国では1970年に発表されたもので、彼らのステージ・デビューは1968年、バンドの結成は1966年に遡る。日本で紹介された1973年頃、彼らはすでに「新人」などではなかったのだ。彼らの「日本デビュー」に際し、彼らの「若さ」がよく取り沙汰されたものだ。デビュー・アルバムを制作した時点での彼らの平均年齢は18歳だったという。その若さでこれほどの作品を造り上げた彼らに対して、ハード・ロック・ファンは大きな期待を寄せたものだ。「ブリティッシュ・ハード・ロック」のファンにとって、ストレイのデビューはまさに「超大型新人」の出現と言ってよかった。
ストレイは四人編成のバンドで、ヴォーカルのSteve Gadd、ギターのDerek Bromham、ベースにはGarry Giles、ドラムがRichard Callというメンバーだった。ベーシストとドラマーはバンド結成時とは異なっているようだが、バンドの中心となっていたのはSteve GaddとDerek Bromhamのふたりで、特にDerek Bromhamは音楽的にもバンドの中心人物だったようだ。「Bromham」はカタカナ表記すれば「ブロマム」とするのが妥当であるようだが、1973年当時の雑誌記事などで「ブロムハム」などと表記されていたことが懐かしく思い出される。
ストレイのデビュー・アルバムが当時のハード・ロック・ファンを驚かせたのは、彼らの音楽の「ハード・ロック」としての水準の高さだった。「平均年齢18歳の新人バンドのデビュー・アルバムにしては」といった前置きなど不要な、ハード・ロック作品としての圧倒的な普遍的魅力があった。ハードにドライヴする豪快な演奏、その中に潜む繊細な情感、冗長に陥ることなく持続する緊張感、楽曲それぞれの持つ存在感、どれをとっても英国ロック特有の芳醇な香りに満たされた第一級の「ブリティッシュ・ハード・ロック」だった。その演奏にはすでに「風格」のようなものが漂い、レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ブラック・サバス、ユーライア・ヒープといった当時の「ビッグ・ネーム」のバンドたちと比べても何ら遜色がなかった。
ストレイの音楽は、ハードでヘヴィでサイケデリックな「ハード・ロック」だった。ギターとベースとドラム、そしてヴォーカルがそれぞれに主張しあい、絡み合い、競い合い、協調し、硬質で重厚な「ハード・ロック」として結実する様子には鳥肌の立つような興奮を誘われる。彼らの演奏にはブルース・ロック的な感触がほとんどなく、どちらかと言えばブリティッシュ・トラッド・ミュージックがその背景に見え隠れする。彼らの演奏は基本的にアグレッシヴなハード・ロックでありながらサイケデリックな感触も濃い。どちらかと言えばガレージ・バンド的な音像の荒々しい演奏だが、粗雑な印象も野卑な感触もまったく感じさせず、ある種の「気品」すら漂わせている。印象的に「耳に残る」リフにも安直な浅薄さが感じられない。
Steve Gaddは強烈なカリスマ性を感じさせるシンガーではないが、ハード・ロック・バンドのヴォーカリストとして充分に魅力的な歌声を聴かせる。Garry Gilesのベース・プレイもいい。Richard Callの「手数の多い」ドラムも素晴らしい。そして何と言っても、Derek Bromhamのギター・プレイが凄い。アコースティックで繊細な演奏からハードに唸りをあげる豪快な演奏まで、とにかく彼のギターは切れ味が鋭い。必要以上に音色を歪ませることなく、ダイレクトに響くギターはその音のひとつひとつが硬質な金属の刃物のようだ。その若さの所以か、彼の演奏は聴き手に挑みかかるような迫力に満ちており、それに引っ張られるようにバンドの演奏そのものが挑戦的でアグレッシヴな力感に溢れ、小賢しい思想性を蹴っ飛ばして唸りをあげる。このような演奏を聴くと、「ハード・ロック」というものが本来どのような音楽であったのかということを再認識する。ストレイのデビュー・アルバムに刻み込まれた、この演奏こそは「ハード・ロック」である。
アルバムを構成するのは全部で8曲、LP時代にはA面、B面にそれぞれ4曲ずつが収録されていた。雄大なスケール感を持つ楽曲とタイトでソリッドな印象の楽曲がバランスよく収録され、ハードにドライヴする楽曲に混じってアコースティックな味わいのスローな楽曲を配しているところなどは、当時のハード・ロック・アルバムの構成に於ける「定石」とも言えるものだが、それだけに飽きることなく安心して聴いていられる。ハード・ロック・アルバムの「お手本」のような構成と言えるのではないか。
アルバムの冒頭を飾る「All In Your MInd」から9分を超える大作だ。それだけの演奏時間にも関わらず冗長にならず、緊張感を持続させたまま最後まで突っ走るところは、とても「新人」バンドのデビュー・アルバムとは思えない風格だ。サイケデリックなブルース・ロック風の「Taking All The Good Things」を挟み、「Around The World In Eighty Days」ではアコースティックな味わいの、哀感漂うメロディを聴かせてくれる。「Time Machine」はヘヴィでアグレッシヴな魅力が凝縮されたハード・ロックだ。LP時代のB面トップを飾り、シングルにもなった「Only What You Make It」では印象的なリフが響き渡る。ハード・ロック・バンドとしてのストレイの魅力を象徴する楽曲だろう。「Yesterday's Promises」では再び物悲しいメロディが耳に残るスローな楽曲だ。「Move On」は楽曲としてのまとまりよりメンバーのインプロヴィゼーション・プレイに重きを置いたもののようだ。ステージではさらにイメージを膨らませて自由な演奏が展開されるのだろう。最後の「In Reverse / Some Say」はタイトルから見てもふたつの楽曲を組みあわせたものだろう。8分を超える楽曲で、アルバムの最後を飾るに相応しい大作だ。アルバムを構成する楽曲はそれぞれに異なる味わいがあるが、どの楽曲も素晴らしく、それぞれに凝った構成がなされており、聴き応え充分で飽きさせない。アルバム全体で47分ほどだが、興奮に満ちた47分間である。
本国より3年遅れてデビュー・アルバムが発売された日本では、この後その遅れを取り戻すかのように比較的短いインターバルでセカンド・アルバム、サード・アルバムと続けて発売された記憶がある。それらのアルバムでも小気味よいハード・ロックを聴かせてくれたストレイだが、残念ながらレッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったバンドたちに匹敵するほどの人気を得ることはできなかった。当時、ストレイは大好きなバンドのひとつだった。それだけに人気の点で伸び悩んでいるのが残念でならなかった。今になればその理由についてはさまざまに考えることができるが、ここでは敢えてそのことについては言及せずにおきたい。ただ、これほどの水準のハード・ロック・アルバムが、あれから30余年を経て時代に埋もれ、一部のマニアックなファンの記憶の中に残っているに過ぎないとしたら、そしてそれ故に今ではアルバム作品自体の魅力さえ過小評価されているのだとしたら、やはり惜しまれてならない。
1970年、ブラック・サバスのデビュー・アルバムが発売され、ユーライア・ヒープのデビュー・アルバムが発売され、ディープ・パープルの「イン・ロック」が発売された。「ブリティッシュ・ハード・ロック」隆盛期の幕開けだった。ストレイのデビュー・アルバムは、紛れもなくそれを担った作品のひとつだったろう。少なくとも「ブリティッシュ・ハード・ロック」隆盛期の到来を担うに恥じない魅力を持った作品であることは間違いない。ストレイのデビュー・アルバムに封じ込められた、この挑戦的で攻撃的な「ハード・ロック」は、他のどのような「ハード・ロック」にも引けをとらない。「名盤」である。
This text is written in July, 2006
by Kaoru Sawahara.
by Kaoru Sawahara.