In The Land Of Grey And Pink / Caravan
1.Golf Girl
2.Winter Wine
3.Love To Love You (And Tonight Pics Will Fly)
4.In The Land Of Grey And Pink
5.Nine Feet Underground:
- Nigel Blows A Tune
- Love's A Friend
- Make It 76
- Dance Of The Seven Paper Hankies
- Hold Grandad By The Nose
- Honest I Did!
- Disassociation
- 100% Proof
Richard Sinclair - bass guitar, acoustic guitar & vocals.
Pye Hastings - electric guitar, acoustic guitar & vocals.
David Sinclair - organ, piano, mellotron & harmony vocals.
Richard Coughlan - drums & percussion.
Jimmy Hastings - flute, tenor sax & piccolo.
David Grinsted - cannon, bell & wind.
All titles composed by Coughlan, Hastings, Sinclair, Sinclair
1971 The Decca Record Co.Ltd.
2.Winter Wine
3.Love To Love You (And Tonight Pics Will Fly)
4.In The Land Of Grey And Pink
5.Nine Feet Underground:
- Nigel Blows A Tune
- Love's A Friend
- Make It 76
- Dance Of The Seven Paper Hankies
- Hold Grandad By The Nose
- Honest I Did!
- Disassociation
- 100% Proof
Richard Sinclair - bass guitar, acoustic guitar & vocals.
Pye Hastings - electric guitar, acoustic guitar & vocals.
David Sinclair - organ, piano, mellotron & harmony vocals.
Richard Coughlan - drums & percussion.
Jimmy Hastings - flute, tenor sax & piccolo.
David Grinsted - cannon, bell & wind.
All titles composed by Coughlan, Hastings, Sinclair, Sinclair
1971 The Decca Record Co.Ltd.
「カンタベリー・ミュージック」を代表するものとして最も相応しい作品は何かと問われた時、その中にキャラヴァンの「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」を含めることはおそらく異論の無いところではないだろうか。あるいは、「カンタベリー・ミュージック」とはどんなものかと問われた時、「それは例えばこのような音楽である」としていくつかの音楽作品を紹介するとすれば、その中に「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」が含まれることになるだろう。そのようにキャラヴァンの「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」は、初期ソフト・マシーンの作品群やロバート・ワイアットのソロ作品、あるいはハットフィールド・アンド・ザ・ノースの作品などと共に、言うなれば最も「カンタベリー・ミュージック的な」音楽のひとつとして挙げることに妥当なものだと言えるだろう。言い換えれば、この作品の魅力を語ることはすなわち「カンタベリー・ミュージック」の魅力を語ることに他ならないのだと言っていい。
キャラヴァンの母体となったのは1960年代に活動したワイルド・フラワーズというバンドだった。このバンドこそ「カンタベリー・ミュージック」のルーツと言っていい。ワイルド・フラワーズはメンバーの入れ替わりの激しいバンドだったが、そのバンドに在籍したミュージシャン達の中から、ソフト・マシーンとキャラヴァンという「カンタベリー・ミュージック」に於ける双頭バンドが誕生した。その経緯についてはここでは詳らかにはしないが、ソフト・マシーンがワイルド・フラワーズから巣立っていったミュージシャン達によって結成されたという印象が強いのに対し、キャラヴァンはワイルド・フラワーズから発展したバンドという印象もある。ソフト・マシーンもそうだが、キャラヴァンもまたその歴史の中でメンバー・チェンジを繰り返し、音楽性を大きく変化させていったバンドだった。時にはシンフォニックなサウンドさえ構築して見せたキャラヴァンだったが、1971年に発表された「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」は初期キャラヴァンの音楽のひとつの完成形であったと言えるかもしれない。
「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」を制作した当時のキャラヴァンのメンバーはRichard Sinclair、David Sinclair、Pye Hastings、Jimmy Hastings、Richard Coughlan、David Grinstedというもので、「カンタベリー・ミュージック」を愛する者にとってはひとつの理想型とも言える構成だった。特にリチャード・シンクレアとデヴィッド・シンクレアが同じバンドに在籍するのは貴重で、このふたりの音楽的個性が作品の上にも大きく表れていると言っていいだろう。
誰のリーダーシップをもってキャラヴァンとするのか、という点についてはカンタベリー・ファンの間でも意見の分かれるところだろう。おそらく「パイ・ヘイスティングスこそがキャラヴァンである」とする意見が一般的なのではないかと思うが、しかしその一方で、やはり「リチャード・シンクレアとデヴィッド・シンクレアのふたりが揃ってこそのキャラヴァンである」と見なす頑固なファンも少なくはないのではないか。そうしたファンにとってはこの作品こそがキャラヴァンの最高作であり、まさに「カンタベリー・ミュージック」を代表する作品のひとつであるに違いない。
「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」は、LPのA面(CDでは前半部分に相当)には4曲の楽曲を収め、B面(CDでは後半部分に相当)にはそのすべてを費やした大作が収録されるという構成をとる。A面に小品集、B面に大作、という構成は、当時の「プログレッシヴ・ロック」の作品ではよく見られたものだった。そのためにこの作品もまたそうした「プログレッシヴ・ロック」の中のひとつとして見られることも少なくないが、この当時のキャラヴァンの音楽世界はいわゆる「プログレッシヴ・ロック」のイディオムからはかなり隔たったものだった。
いわゆる「プログレッシヴ・ロック」が「ロック」の中にジャズやクラシックや現代音楽の手法などを持ち込み、ロック・ミュージックの拡大や進化を目指したものであったとするならば、この当時のキャラヴァンは「プログレッシヴ・ロック」ではない。彼らの音楽は基本的にシンプルなポップ・ソングに立脚しているのであって、敢えて言うならロック・ミュージックであることからも背を向けているように思える。演奏は充分に技巧的だが、技巧的な演奏がその音楽の主体にあるのではない。その演奏はジャズ的でもあるが、殊更にジャズの方法論を取り込むことで先鋭的であろうとしているのではない。その中でどのような先鋭的試みがなされていようと、この音楽はポップ・ソングであることに存在の基盤があるのだ。
そうした意味で言えば、「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」は洒落た「小品集」のような味わいがある。B面すべてを費やした大作「Nine Feet Underground」でさえも、文字通りの「大作」としてよりも、いわばさまざまな小品を集めてタペストリーのように織り上げられた結果として存在している。初期キャラヴァンと、そして「カンタベリー・ミュージック」に於ける最大の魅力のひとつが、こうした「小品集」的な構成にあった。そこには過度の大仰さも難解さも見あたらない。その作品世界に対峙するのに特別な気構えも必要ない。例えて言えば、雄大なスケールで描かれた長大な物語ではなく、小粋なシーンを集めた短編集のような味わいのようなものだろうか。その作品世界にどっぷりと浸って感動を味わうというのではなく、読み終わった後にほんのりと心に残るものがあるという、あの感覚に近い。
キャラヴァンの音楽の、そうした「洒落た小品」としての魅力を堪能できるのが、「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」の前半部分に収録された4曲だろう。収録された楽曲は、どれもポップで親しみやすい曲調が魅力だ。これらの楽曲はまさにキャラヴァンの真骨頂とでも言うべき、魅力的な楽曲群だ。曲調は総じて穏やかで安らぎに満ちており、牧歌的なイメージで展開される。英国的なウイットに富み、時にコミカルですらある。メロトロンやフルートなどを交えて演奏される音像は、時に幻想的で神秘的な表情を見せ、英国的な田園風景を想起させる中に一瞬の異世界を現出して見せる。そのイメージはジャケットに描かれた童話的世界と見事に呼応する。
LPのB面すべてを費やした「Nine Feet Underground」では、キャラヴァンの音楽は自由に羽ばたき、その演奏の妙を堪能することができる。その演奏は常に知的でクールな感触を伴っており、過度の緊張感や攻撃的な感触といったものとは無縁だ。自由奔放に展開される演奏も、知的に抑制されており、情緒に流れ去ってしまうことがない。しかしその演奏は非常にスリリングでもあり、聴き手に知的な興奮を誘う。
彼らの音楽のそうした印象は、しかし他の一般的なロック・ミュージックに慣れ親しんだ者にとってはかえって難解でわかりにくいものであるかもしれない。「ハード・ロック」や「ブルース・ロック」などを好む人々にとって、この音楽はロックですらなくジャズであると思えるものかもしれない。それは正しい。「Nine Feet Underground」で聴かれるインプロヴィゼーションはロック・ミュージックに於けるそれではなく、すでにジャズだ。ある意味では「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」という音楽作品そのものがジャズだ。ポップ・ソングの形を借りたブリティッシュ・ジャズであるということもできるかもしれない。
そもそも「カンタベリー・ミュージック」というものは、ブリティッシュ・ジャズとブリティッシュ・トラッド・ミュージックがポップの形に集約された時に「ロック」の意匠を身につけたものだと解釈してもいい。ブルースやロックン・ロールからの正常進化としてのロック・ミュージックとは、その基本的な在り方が異なっているのだ。ソフト・マシーンもキャラバンも、そうした「カンタベリー・ミュージック」の初期の混沌の中から誕生した。その音楽世界の魅力を理解するためには、まず「ロック・ミュージック」というものの常識的枠組みを捨て去ることが必要なのだ。
「In The Land Of Grey And Pink(グレイとピンクの地)」は英国流の機知とユーモアに裏付けられたポップ・センスと、ジャズとしての自由な音楽創造が絶妙のバランスで融合し、「プログレッシヴ・ロック」の意匠を借りて完成している。それはそのまま「カンタベリー・ミュージック」というものの特徴なのだが、それ故にこの作品は「カンタベリー・ミュージック」を代表する傑作となり得ている。作品としての完成度は高く、「カンタベリー・ミュージック」の枠組みを超えた普遍的なポップ・ミュージックとしての魅力を放っている。「カンタベリー・ミュージック」はそのあまりの裾野の広さ故に、全貌を把握することがなかなか難しいが、入り込んでゆくことは簡単だ。ここから「グレイとピンクの地」へと旅だって行けばよいのだ。
This text is written in July, 2002
by Kaoru Sawahara.
by Kaoru Sawahara.