東京都北区滝野川二丁目に「赤レンガ酒造工場」と呼ばれる施設がある。独立行政法人酒類総合研究所の東京事務所として使われている施設だが、建物は明治36年に建てられたものという。桜の咲く四月上旬、「赤レンガ酒造工場」を訊ねた。
赤レンガ酒造工場
赤レンガ酒造工場
東京都北区滝野川二丁目の住宅街の中に、明治期の香りを漂わせる煉瓦造りの建物が建っている。「赤レンガ酒造工場」と呼ばれる建物だ。現在は独立行政法人酒類総合研究所の東京事務所として使われているものだが、そもそもは1903年(明治36年)、旧大蔵省醸造試験所の施設として建てられたものという。この旧大蔵状醸造試験所が現在の独立行政法人酒類総合研究所の前身で、1904年(明治37年)にこの地に設置されている。その後、名称の変更や管轄省庁の変更などを経て、1995年(平成7年)に中心施設は広島県へ移り、現在の独立行政法人酒類総合研究所として再スタートしたのは2001年(平成13年)のことだ。
赤レンガ酒造工場
赤レンガ酒造工場
赤レンガ酒造工場
この「赤レンガ酒造工場」の建物を設計したのは横浜赤レンガ倉庫横浜正金銀行(現在の神奈川県立歴史博物館)などを手がけたことで知られる妻木頼黄(よりなか)だ。妻木は当時、大蔵省総務局営繕課長だったらしい。妻木が設計した建築物で現存するものは少なく、それだけにこの「赤レンガ酒造工場」は貴重な建築遺産だ。それほど大きな建物ではないが、やはり歴史を重ねた風格のようなものを感じさせる。少し離れて眺めると建物の向こうに高層のビルなどが見えてしまって、その姿の違いが対照的だが、それもまた都会の風景として一興かもしれない。建物内部は普段は見学することはできず、時折実施させる“見学会”に事前予約をして見学することができるようだ。酒類総合研究所の施設とあって見学会の際には“利き酒”もできるというのが面白い。
追記 赤レンガ酒造工場は2014年(平成26年)12月10日、「旧醸造試験所第一工場」として国の重要文化財(建築物)の指定を受けている。
赤レンガ酒造工場
予備知識なしで訪れたのだが、訪れた日は事前予約がなくても随時自由に見学することのできる施設公開が行われていた。毎年のことなのかどうかわからないが、桜の時期で来訪者が多いことを受けての措置なのだろう。施設公開は金曜日と土曜日の二日間行われたようで、今回訪れたのは二日目の土曜日だった。日曜日は施設そのものが休日なのだろう。せっかくなので内部を見学してみた。パネル展示なども行われており、醸造に関する設備なども目を引くが、建物の内部構造そのものも興味を覚えるところだ。来館者の人気を集めていたのは“利き酒”コーナーだったようだ。
赤レンガ酒造工場
赤レンガ酒造工場
建物の北側は旧大蔵状醸造試験所時代の敷地の一部を整備して醸造試験所跡地公園となっており、建物の外観なら公園から存分に眺めることができる。今回訪れたのは四月上旬の桜の咲く季節、公園内にも桜が咲き、お花見を楽しむ人たちで賑わっている。桜はそれほど多くはないが、そのためもあってかお花見の人もそれほど多くはなく、のんびりとした春の空気を感じられるのは嬉しい。「赤レンガ酒造工場」の建物と桜との取り合わせもなかなかよい風情で、フォトジェニックな風景だ。桜の名所として知られる飛鳥山公園にも近い立地だが、あちらはお花見の人がたいへんに多く、人混みを避けてのんびりとしたお花見を楽しみたい人には、この公園は“穴場”的にお勧めかもしれない。

桜の季節でなくても、妻木頼黄の設計による赤レンガの建物はそうした建築物の好きなファンであれば必見のものだろう。見学会への参加を予約して訪れるのもお勧めだ。できれば内部も見学しておきたい。
参考情報
「赤レンガ酒造工場」施設内の見学は通常は事前予約が必要だ。詳細は独立行政法人酒類総合研究所の公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
「赤レンガ酒造工場」は明治通りと本郷通りとの交差点の西側に位置している。都電荒川線飛鳥山停留場が至近だが、JR王子駅や東京メトロ南北線王子駅からも充分に歩ける距離だ。

車で来訪する場合、施設には一般用の駐車場は用意されていないため、周辺の民間駐車場を利用しなくてはならないが、あまり多くはないようだ。公共の交通機関での来訪をお勧めする。

飲食
建物の周辺が公園として整備されており、シートを広げてアウトドアランチを楽しむのもお薦めだ。飲食店は明治通りの交差点近くに点在しているがあまり数は多くない。王子駅周辺には多くの飲食店があるから、そちらで食事を楽しむのもいい。

周辺
「赤レンガ酒造工場」の東側へ明治通りを越えれば飛鳥山公園だ。建物に興味のある人なら公園内の旧渋沢庭園に残る建物も見ておきたい。飛鳥山公園の北側には石神井川の旧流路を利用して造られた音無親水公園がある。小さな公園だが立ち寄ってみても楽しい。桜の季節であれば、桜の名所として知られる飛鳥山公園音無親水公園はもちろん、石神井川の河岸を西に辿ってみるのもお勧めだ。河岸は桜並木で区界を越えて板橋区へと入るとますます見事な桜並木が続いている。

本郷通りを南へ辿れば滝野川公園や旧古河庭園、北へ辿れば名主の滝公園などがある。散策の足を延ばすのも楽しい。
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