野川公園は1980年(昭和55年)に開園した都立公園だ。その大部分は東京都調布市に位置しているが北側では市境を越え、小金井市、三鷹市に跨っている。40haほどの面積を有する広大な公園だが、その中央部を東八道路(都道246号)が抜けて公園を分断しているため、公園は芝生広場と樹林から成る南西側区域と野川河岸を中心にした北東側区域との二つの区域から構成される形だ(両者は三つの人道橋で繋がれており、行き来にそれほどの不便はない)。開放感溢れる広場を中心にした南西側区域と、野川の自然に触れることのできる北東側区域、それぞれに魅力があり、園内の風景も美しい。行楽シーズンには大勢の来園者で賑わう公園だ。
東八道路の南西側の区域は芝生の広場と樹林から構成され、広大な面積を有している。芝生の広場は樹林によっていくつかに区切られ、「大芝生」や「自由広場」、「わんぱく広場」、「いこいの広場」などと名付けられた小広場となり、それらがまとまって全体を成している。とは言っても公園全体が大きいためにそれぞれの広場もかなりの面積を有し、初めて訪れたときにはその広さに少々驚く。
野川公園はそもそもは北に隣接する国際基督教大学のゴルフコースだったところを買収し、公園として整備したものらしく、それを知ればその広大さと樹林と広場で構成された形であることにも納得がいく。
公園南端部、人見街道に面して駐車場や管理所が設けられており、ここが公園のメインエントランスだ。管理所の北側にはシンボルツリーのように大きなクスノキが枝を広げ、その向こうには広大な芝生の広場が広がっている。「大芝生」と名付けられた広場で、公園内で最も開放感に富んだ広場だ。管理所の西側、駐車場横には「バーベキュー広場」があり、休日にはバーベキューを楽しむ人たちで賑わう。
管理所の北東側は「自由広場」と「わんぱく広場」で、「わんぱく広場」はその名からも連想できるが子どもたちの遊び場としての役割で、アスレチック風のさまざまな遊具類が置かれている。
広場の北に奥まったところは「いこいの広場」で、その中には「少年デイキャンプ場」が置かれ、キャンプのための施設が設けられている。駐車場横からテニスコート横にかけての西端部は樹林地となっており、ヒマラヤスギの林やカツラの林、イチョウの林などから構成された中を散策路が辿っている。
芝生の広場と樹林との組み合わせがこの区域の魅力と言ってよく、緑に包まれながらのんびりと穏やかなひとときを過ごすことができる。特に中央部の「大芝生」周辺は木陰にシートを広げてくつろぐ家族連れなどの姿も多く、平日には遠足で訪れた子どもたちで賑わっていることも少なくない。園内の樹木はどれも大きく、初夏の日差しを浴びて新緑に輝く姿がたいへんに美しい。木立を抜ける風に吹かれながらのんびりと過ごすのもよく、ゆったりとした気分で散策を楽しむのもいい。
東八道路の北東側の区域はその中央部を野川が流れ、その河岸に散策路が辿っている。緩やかな曲線を描いて流れる野川と河岸を彩る木々の風景はたいへんに美しく、この風景が野川公園を象徴する風景だと言っていいだろう。野川の河岸はコンクリートで固められてもおらず、ほぼ自然のままの姿を保っているのが嬉しい。
野川は流れの中まで降りていくこともできる。流れる水も澄んでおり、初夏から夏にかけての季節には川遊びを楽しむ家族連れで賑わっている。通常は水量もそれほど多くないから、比較的安全に川遊びを楽しむことができるだろう。
河岸の遊歩道を散策する人の姿は多い。自転車で行き過ぎる人もある。来園者以外にも、野川沿いに散策を楽しむ人が少なくないのだろう。河岸の遊歩道を歩きながら遠くへ視線を向けると眼に入るのは野川の流れと河岸の木々だけだ。市街地の中に位置する公園では木々の向こうに高層のビルなどが見え隠れすることがあるものだが、ここではそれもない。市街地の中の公園であることをすっかり忘れ、自分がどこにいるのか、ふとわからなくなるような感覚を味わう。そんな錯覚も楽しい。
野川右岸側の北端部、なだらかな起伏を伴った草はらの広場と樹林とで構成された区域がある。ここも緑濃い木々の織りなす穏やかな雰囲気が魅力だ。野川の岸辺からそのまま続く様子もよく、川の流れを間近に感じながら穏やかなひとときを過ごすことができる。
野川の左岸側、すなわち北東側は国分寺崖線の湧水を集めた湿地になっており、その大部分はフェンスで囲まれた「自然観察園」として保護されている。「自然観察園」は時間に制限があるものの一般にも開放されており、フェンスに設けられた扉を開いて中に入ることができる。中は散策路が辿り、湿地部分では木道が設けられ、湿地に育つ植物を観察しながらの散策が楽しい。
「自然観察園」の中ではオドリコソウやシャガ、キショウブ、サクラソウ、エビネ、カントウタンポポなど、さまざまな花々も楽しめる。花の好きな人には見逃せないものかもしれない。一角には「ホタルの里」と名付けられた区画があり、立入禁止になっている。季節になればホタルの姿が見られるのだろう。
「自然観察園」の東側、公園の東端部の辺り、野川左岸に「わき水広場」が設けられている。その名の通り、国分寺崖線、いわゆる“ハケ”からの湧水を利用して、子どもたちのための水遊び場を整備したものだ。湧水を集めた小川は人工的な水遊び施設としての印象が薄く、山間の渓流を思わせる様相なのが楽しい。木陰になっているのも嬉しい。水深も浅く、特に小さな子どもたちの水遊び場として人気のようだ。
小川の脇には草はらの広場も設けられており、初夏から夏にかけての時季、小さな子どものいるファミリーで賑わっている。広場の木陰にはシートを広げる家族連れの姿も多く、「わき水広場」だけでひとつの公園として成立している印象もある。「わき水広場」を目指して自転車で来園する近隣の人たちも少なくないようだ。
野川公園は散策を楽しむにもよく、家族連れやグループでのんびりと休日を過ごすにもいい。トイレも園内随所に設置されており、特に不便を感じることはない。今回訪れたのは四月末、管理所前では鯉のぼりが風に泳いでいた。
野川公園の最大の魅力は、その広大な敷地に溢れる緑だ。野川の水辺の緑、芝生の緑、木々の緑、それらに包まれていると日々の喧噪を忘れてゆったりと穏やかな気持ちになる。吹き渡る風も清々しく心地よい。のんびりと園内を散策した後は、お気に入りの木陰を見つけてシートを広げ、のんびりとランチタイムを楽しもう。