横浜線沿線散歩公園探訪
町田市野津田町
薬師池公園
Visited in April 2000
(本頁の内容には現況と異なる部分があります)
薬師池公園
薬師池公園は町田を代表する景勝地として、また四季折々に花々が楽しめる公園として有名で、常に多くの人が訪れて賑わっている。「公園」としてではなく「観光地」として成立している性格もあって、季節毎の花々が見頃となる時期には遠方から訪ねてくる人も少なくないようだ。

薬師池公園は野津田町の南端部の谷戸にあたり、その名が示すように中央部に池を抱えている。池の周囲には梅林や菖蒲田、萬葉草花苑といった施設が置かれて、さらにその周囲を雑木林の丘陵が取り巻いている。池のほとりには桜やモミジなども多く、それぞれの季節には風情のある美しい景観を見せてくれる。
福王寺薬師堂
池の西側の雑木林の斜面の奥には野津田薬師と呼ばれる福王寺薬師堂がある。この薬師堂は天平年間(729〜749年)の行基による開基と伝えられているといい、町田市では最古の寺院であるそうだ。現存するお堂は1883年(明治16年)に再建されたものだそうで、現在は野津田の芝溝街道沿いの華厳院の一部となっているらしい。薬師堂は鬱蒼とした木立に囲まれて昼でも薄暗いほどで、その空気が悠久の時の流れを含んでいるようにも感じる。お堂の正面には町田市の名木百選にも指定されているイチョウの大木がある。実に堂々とした巨木で、樹木に興味のある人なら一見の価値があるのではないかと思える。

「薬師池」の名は、その野津田薬師の傍らにある池という意味だが、江戸時代には福王寺溜井(ふくおうじためい)と呼ばれていたという。園内に設置された案内板によれば、溜井の成立は寛永年間(1624〜1643年)のことで、長さ70間(約126メートル)幅28間(約50.4メートル)の規模だったという。農業用水のための溜池として農地を潰して造られたものだというから、ここから北方へ鶴見川河畔へ至るまでかつては谷戸田が広がっていたのだろう。溜井は1707年(宝永4年)に富士山噴火の降灰で埋まったが、翌年から三年間に渡る浚い普請(さらいぶしん)が行われたという。
旧永井家住宅
公園内には町田市内にあった旧民家が二棟、移築復元されている。池の南側、萬葉草花苑の奥にある旧荻野家住宅と、池の西側、梅林の奥の旧永井家住宅がそれで、旧荻野家住宅は三輪町に、旧永井家住宅は野津田町、現在の位置から北方約3.2キロの場所にあったものを、いずれも1974年(昭和49年)に移築復元したものだ。

荻野家は医家で、町屋の造りを取り入れた農村部の医家の建物として珍しいものであるという。旧荻野家住宅は東京都指定有形文化財に指定されている。旧永井家住宅は国の重要文化財に指定されているもので、創建に関しての詳細は不明のようだが、間取り、構造から、江戸時代中期の民家の特色を備えているという。
花壇越しに見る町田フォトサロン
池の北側には写真家・秋山正太郎氏の協力を得て町田フォトサロンが1999年(平成11年)10月に開館している。秋山氏は町田ダリア園で撮影会を催すなど、町田とは縁が深いが、花や自然に恵まれた町田の環境を愛する秋山氏が障害者団体による管理運営という在り方に共感しての結果のように聞いている。フォトサロンは二階建てで、秋山氏の作品の展示の他、市民による作品展示なども行っている。季節毎に花々が楽しめ、野鳥の姿も多い薬師池公園は、それらを狙う写真愛好家の姿も多く、当を得た施設と言えるかもしれない。
町田フォトサロンの北側には椿園の中に「自由民権の像」が建てられている。町田市の市制40周年を記念して1998年(平成10年)に建てられたもので、中央下部には「自由民権の鐘」が吊されている。この鐘をつくという催しも行われることがあるようだ。
薬師池公園
薬師池公園のすぐ東側には鎌倉街道が抜けているのだが、木立に遮られるのか、車の騒音は意外に届かず、穏やかな静けさに包まれている。雑木林に囲まれた谷戸の適度な閉塞感と端正に整えられた日本庭園風の造りが、気持ちの上でも静けさを与えてくれるのかもしれない。四季折々の花々を楽しみながら池のほとりを散策するのもよく、雑木林の中の散策路を辿ってみるのもいい。南側の裏口から入ると、林の木立の隙間から見える池の風情がまたいい。早春の梅春の桜、初夏の新緑と藤、次には花菖蒲紫陽花夏の大賀ハス秋には紅葉、冬は雪景色も美しく、四季折々の自然は訪れる度に違った表情を見せてくれて飽きない。

薬師池公園
萬葉草花苑の傍らにある茶店も風情のある意匠で園内の雰囲気に溶け込んでいる印象だ。ここでお茶を飲みながら一休みしつつ、薬師池の景観をのんびりと楽しむのも良いものだろう。藤棚横の売店ではうどんやそばなども売っているが、園内はもちろん近辺にも本格的な食事ができる施設はなく、余裕を持って訪れるのならお弁当持参が良い。小さな子どもたちが喜びそうな遊具類は無く、散策を楽しむ庭園としての性格の濃い公園だが、時にはピクニック感覚で家族連れで訪れるのもいいかもしれない。

薬師池公園は1961年(昭和36年)に風致地区に指定され、周辺は「七国山周辺観光施設整備計画」のひとつとして整備が行われているのだという。薬師池公園の西側の山は「七国山」と呼ばれ、周辺一帯の丘陵地帯には美しい農村の風景が残っている。公園周辺には町田リス園町田ぼたん園、町田ダリア園、町田えびね苑といった施設も点在し、それらを巡る七国山周辺の散策も楽しい。薬師池公園は「新東京百景」にも選ばれており、また1998年(平成10年)には「福王寺旧園地」として東京都の名勝に指定されてもいる。周辺も含めてまさに屈指の景勝地と言えるだろう。
【追記】
町田市では2014年度(平成26年度)から薬師池公園とその周辺を一つの大きな地域公園として捉え、「町田薬師池公園 四季彩の杜」の名称で整備を進めている。それに伴い、「薬師池公園」は「町田薬師池公園 四季彩の杜 薬師池」に、他もそれぞれに呼称が改められている。本頁の内容はそれ以前のものであることもあり、以前の呼称のままにしておきたい。
薬師池公園