横浜市中区山手町
山手西洋館
世界のクリスマス2006
Visited in December 2006
山手西洋館で開催される「世界のクリスマス」もすっかり横浜の年末の風物詩として定着したようだ。今年(2006年)もまた昨年と同様、山手公園内の旧山手68番館(現テニスクラブのクラブハウス)を加えた八棟の洋館と岩崎ミュージアムとを会場にして開催される。始まったばかりの12月初旬、早速「山手西洋館 世界のクリスマス」へと出かけた。
「横浜市イギリス館」で行われるのはもちろん「イギリスのクリスマス」、今年のテーマは「Cozyなクリスマス」だそうだ。「cozy」とは「居心地がよい」とか「くつろいだ」といった意味の言葉だ。その言葉の通り、どちらかと言えば気さくで暖かみのある、家庭的な雰囲気の漂う飾り付けだ。華美なオーナメントを排し、日常的な小物がうまく使われているところなど、なかなか素敵だ。テーブルセッティングはしっかりと英国の伝統を感じさせつつ、しかし必要以上に格式張ってはいない。全体的に緑色が多く使われている印象で、そのせいかシックで落ち着いた佇まいの飾り付けになっている。
「山手111番館」は「ドイツのクリスマス」だ。「クラシックな輝き」というテーマが掲げられており、グラスリッツェンの作品展示がメインに据えられている。井上裕子氏の主宰するグラスリッツェンフィールド協会の協力によるもののようだ。グラスリッツェンとはダイヤモンドの粉を先端につけたペンでガラスの表面に彫刻を施す技法で、その精緻な美しさには思わず見入ってしまう。展示されたグラスリッツェン作品は芸術作品でもあり、「写真撮影はご遠慮下さい」とのことだったから、クローズアップの写真は遠慮しておこう。係りの人が丁寧に説明をしてくれるから興味のある人は話を聞いてみるといい。もちろんグラスリッツェン以外にも展示があり、なかなか見応えがある。木製の玩具をあしらった展示も楽しい。赤という色彩が印象に残る飾り付けだ。
「山手234番館」は「スウェーデンのクリスマス」で、「古き良きスウェーデンのクリスマス」がテーマだ。リーフレットの説明によれば「画家カール・ラーション、児童文学者アストリッド・リンドグレーンの作品を軸に、共通する古き良きスウェーデンをイメージした」ものという。カール・ラーションは1853年生まれ、自分の子どもたちを題材にした絵も多く、その絵にはまさに「古き良きスウェーデン」が描かれている。アストリッド・リンドグレーンは1907年生まれで、「長くつ下のピッピ」や「やかまし村の子どもたち」といった作品で世界的な名声を得ている児童文学者だ。展示はシンプルなものだが、カール・ラーションやアストリッド・リンドグレーンの作品世界を思い出しながら見てみるとなかなか興味深い。
「エリスマン邸」の展示は「デンマークのクリスマス」だ。「おとぎの国のクリスマス」がテーマだ。デンマークと言えば著名な童話作家アンデルセンを生んだ国だ。展示はそのアンデルセンの作品をモチーフに、国旗に使われている赤と白をテーマカラーにしたものという。随所にデンマーク国旗を配し、さまざまに工夫を凝らした細緻な飾り付けがなされており、たいへんに見応えがある。オーナメント類も繊細で、窓外からの光に煌めく様子などはたいへんに美しい。細部まで丹念に見て回りたい飾り付けだ。
「ベーリックホール」は「フランスのクリスマス」、「おいしいクリスマス Dericieux Noel」だそうだ。リーフレットによればフランスでは家族で食卓を囲むことをとても大切にしているとのことで、家族の団欒や食卓を囲むことの楽しさがテーマにされているという。特に際だった特色のある飾り付けではないが、奇をてらったところのない、落ち着いた佇まいで、「我が家でもこのように飾り付けをしたい」と思えるような、好感の持てるものだ。華美に過ぎることなく、しかし気が利いていて洒落ているという印象の飾り付けだと言っていいかもしれない。
山手公園内の旧山手68番館(現在はテニスクラブのクラブハウスとして使われている)は「ドイツ風のクリスマス」だ。「森と暖炉と家族のぬくもり」と題され、ドイツの田舎の一般家庭の様子を模した飾り付けで、家族で祝うクリスマスがテーマになっているという。確かにちょっと田舎の雰囲気が漂い、ほのぼのとした印象を受ける。クラブハウスの一室のみを使った飾り付けだから規模は大きなものではないが、なかなか素敵な雰囲気で楽しませてくれる。
「外交官の家」は「常夏のクリスマス」がテーマで、「シンガポールのクリスマス」だそうだ。ほとんどが西欧、北欧の国々が選ばれている今年のクリスマス展示に於いて、この「常夏のクリスマス」はひときわ目立っている。原色の花々を使った飾り付けはとても濃厚で絢爛な印象があり、敬虔な中にも陽気で明るいクリスマスが演出されているように感じられる。こうした飾り付けの印象というものは、やはりその土地の風土、特に気候と密接に関係があるのだろう。
「ブラフ18番館」は「オーストリアのクリスマス」、テーマは「音楽と灯のクリスマス」だ。音符やト音記号、五線譜などをモチーフにした飾り付けもあり、訪れたときには館内にJohann Strauss II(ヨハン・シュトラウスII世)作曲の「Annen-Polka(アンネン・ポルカ)」が流れていた。オーストリアと言えばやはりウインナ・ワルツだろうか、ヨハン・シュトラウスII世は「ワルツ王」とも呼ばれ、ウインナ・ワルツを代表する作曲家としてよく知られている。館内の飾り付けはシックで落ち着いた佇まいで、まさに「音楽の都」を彷彿とさせるイメージだ。派手に過ぎず抑えられた色彩がとても清涼で上品な飾り付けであるように思える。
今年の「世界のクリスマス」の展示は各館とも比較的落ち着いた雰囲気で、いわば「自然体の」飾り付けがなされているという印象だった。さまざまな小物を使って工夫された飾り付けの中にそれぞれのお国柄が漂うような展示がなかなか素敵だ。「外交官の家」の「シンガポールのクリスマス」はかなり強烈な印象を残したが、個人的には「ブラフ18番館」の「オーストリアのクリスマス」や「エリスマン邸」の「デンマークのクリスマス」などが好みの雰囲気だった。今年も岩崎ミュージアムが参加しており、「日本のクリスマス」としてクリスマスをテーマにした日本の作家のアートが集めてあるという。興味のある人はこれも見ておくといい。
各館に「山手西洋館 世界のクリスマス2006」の案内リーフレットが用意されている。イラストマップが載せられているから山手が初めてだという人にも便利だ。今年もまた各館でそれぞれにコンサートなどが催される。その予定に合わせて二度、三度と訪れてみるのも楽しそうだ。ほとんどの洋館は靴を脱いで入館しなくてはならない。訪れるときは脱ぎ履きのしやすい靴を履いていった方がいいかもしれない。観覧者の多いときには靴の履き間違いも少なくないというから充分に注意されたい。
各館に「山手西洋館 世界のクリスマス2006」の案内リーフレットが用意されている。イラストマップが載せられているから山手が初めてだという人にも便利だ。今年もまた各館でそれぞれにコンサートなどが催される。その予定に合わせて二度、三度と訪れてみるのも楽しそうだ。ほとんどの洋館は靴を脱いで入館しなくてはならない。訪れるときは脱ぎ履きのしやすい靴を履いていった方がいいかもしれない。観覧者の多いときには靴の履き間違いも少なくないというから充分に注意されたい。