横浜市中区山手町
山手西洋館
世界のクリスマス2010
Visited in December 2010
今年(2010年)もまた「山手西洋館 世界のクリスマス」が12月1日から25日までの期間で開催される。横浜山手地区に点在する洋館を舞台に、それぞれテーマの国を決めてクリスマスの飾り付けが行われるもので、今では12月の山手を彩る風物詩になった観もある。その初日の12月1日、早速「山手西洋館 世界のクリスマス」を訪ねた。
今年(2010年)の「横浜市イギリス館」のテーマは「旧英国総領事公邸のクリスマス」だ。リーフレットに記された説明によれば「開港時代の頃のイギリス総領事公邸でのホームクリスマスをイメージ」したとのことだ。「Classic and Brilliant」というサブタイトルが付けられており、リーフレットの説明には「シックで華やかなクリスマスをお楽しみください」とある。確かに華美に過ぎることなく、しかし質素というのでもなく、抑制の効いた、品のある華やかさが感じられる飾り付けだ。テーブルセッティングも「ホームクリスマス」というイメージ通りのもので、かつてのイギリス総領事公邸ではこのようにクリスマスを祝ったのだろうかと思わせる。館内1階部分はコンサートなどのイベントに使用されるため、2階部分のみの飾り付けだが充分に見応えがある。階段踊り場の窓に飾り付けられたオーナメントも素敵だ。
「山手111番館」は「ドナウに響く鐘の音〜リストに捧ぐクリスマス」と題されている。テーマ国はハンガリーだ。タイトル中の「リスト」は19世紀の作曲家、ピアニストのフランツ・リストのことだ。リストは1811年にハンガリーに生まれており、すなわち来年(2011年)には生誕200年を迎える。そのことからリストへのオマージュとして、「ラ・カンパネラ」をイメージした飾り付けがなされているという。吹き抜けとなったホールの飾り付けがまさに「ラ・カンパネラ」をイメージした飾り付けだろうか。印象的に用いられた赤が「ラ・カンパネラ」の曲想に似合っているように思える。テーブルセッティングは白と緑を基調とした色彩で、清涼感のあるものだ。窓辺の飾り付けも美しい。そのタイトルから、館内にはリストの音楽が流されているのだろうかと期待して訪れたのだが、残念ながら(少なくとも今回訪れた時には)音楽は流されていなかった。
「山手234番館」は、こちらはショパンだそうだ。「ショパンの国のクリスマス」と題され、もちろんテーマ国はショパンの出身国であるポーランドだ。リーフレットの説明に「温かい家庭のクリスマスをお楽しみください」とあるように、家庭的な雰囲気の飾り付けがなされている。部屋の一角にはポーランドのクリスマスについて記されたパネルも設置されている。それによれば、ポーランドは国民のほとんどがカトリック教徒で、クリスマスを盛大に祝うのだそうだ。クリスマスイブは家族で祝い、夕食の後にプレゼントが配られ、皆でクリスマスソングを歌うのだという。イブの日は肉を食べてはいけないらしく、お酒も飲まないのだそうだ。他にもさまざまに興味深いことが記されている。ポーランドという国があることは知っていても、お国柄や文化などには疎く、ましてやクリスマスの過ごし方などは知らないことばかりだ。パネルに記された紹介文を読んでから飾り付けを見学すると、ポーランドのクリスマスの様子をほんの少し想像できる気もする。
「エリスマン邸」は「白い国のクリスマス」、テーマ国はスイスだ。雪に覆われた白い世界をイメージしたもののようで、スイス国旗に用いられている赤と白とを基調にし、木々の緑を効果的に配した美しい飾り付けがなされている。サンルームに施された飾り付けや家具の壁面に施された飾り付けなどは、少しばかりポップな味わいもあって楽しい。クリスマスの飾り付けは館内1階部分を用いて行われており、2階部分ではスイスの紹介などの展示がなされている。訪れたときには2階部分の展示もぜひ見学していきたい。
「ベーリックホール」はフィンランドのクリスマスだ。「フィンランドのヨウル」と題されている。「ヨウル」とはフィンランド語でクリスマスのことらしい。サブタイトルには「森と湖のクリスマスウェディング」とあり、1階の一角にはウェディングドレスの展示もなされている。リーフレットの説明には「森と湖の精霊たちからの贈り物がおりなす、幻想的なヨウルの世界」とある。白と銀と緑を基調にした色彩の飾り付けは、なるほど幻想的な雰囲気を漂わせている。全体的にアート感覚に溢れる飾り付けで、単なる“クリスマスの飾り付け”と言うより、まさに「フィンランドのヨウル」をテーマにしたアート作品だと捉えた方がよさそうだ。
山手公園内の旧山手68番館のテーマ国は、今回は日本、「テニスコートのクリスマス」と題されている。日本庭球発祥の地である山手公園内に位置し、現在はテニスクラブのクラブハウスとして使用されている旧山手68番館に相応しいテーマと言えるだろう。アート感覚溢れるオーナメントにはテニスボールやラケットがあしらわれており、なかなか遊び心のある飾り付けだ。余談だが、旧山手68番館の建つ山手公園は山手本通りから少し離れており、初めての人には少し分かりづらいかもしれない。だからなのか、山手本通りから旧山手68番館まで、以前の「山手西洋館 世界のクリスマス」の飾り付けに用いられた小さな木製のサンタが道案内をしてくれる。「もう一息!」などと添えられているのが微笑ましい。
今年の「外交官の家」はドイツのクリスマスだ。「ロマンティックカントリークリスマス」と題されている。「外交官の家」の飾り付けは、今年の「山手西洋館 世界のクリスマス」の中で最も異色のものかもしれない。何しろ何の変哲もない(ように見える)枯れ枝が飾られているのだ。傍らに解説を記したパネルがある。ミズナラの木であるらしい。今では“クリスマスの木”と言えば樅の木だが、昔は「聖なる木」はミズナラだったのだそうだ。そして目を引くのが塔屋1階部分のサンルームに飾られた“わら人形”だ。添えられたパネルの解説によれば、南ドイツ、ベルヒテスガーデンで「聖ニコラウスの日(12月6日)」の前夜に行われる祭りで登場する“豊穣の神”なのだそうで、土地の人々は「ブッテン・マンドル」、あるいは「ブット・マンドル(ずんぐり男)」と呼ぶらしい。家々を訪ね歩き、時折人に襲いかかるという。何しろ“豊穣の神”であるから人々はワインやビール、食事などを振る舞うが、子どもたちには恐ろしい存在らしい。解説でも言及があるが、どことなく日本の「なまはげ」を彷彿とさせる。ドイツやオーストリアの小さな村ではキリスト教が入ってくる以前から伝わる風習であるらしい。興味のある人は係の人から詳しい話を聞いてみるといい。
「外交官の家」の2階、かつて内田定槌が書斎として使っていた部屋に、“お菓子でできた家”が飾られている。ドイツは「グリム童話」を編集したグリム兄弟の国だ。「グリム童話」の中の「ヘンゼルとグレーテル」に“お菓子の家”が登場することから、ドイツのクリスマスをテーマにした「外交官の家」に飾られているもののようだ。この“お菓子の家”、東京都内でケーキ教室を主宰しておられる伴真弓氏(リーフレットには「洋菓子研究家」とある)の制作による。訪れたとき、ちょうど伴氏が現場におられ、詳しい話を聞くことができた。この“お菓子の家”は当然のことだが(植栽などの一部を除いて)すべてクッキーなどのお菓子で出来ている。お菓子で家を作るというのは想像する以上に難しいと思うのだが、初めはすぐに壊れてしまってなかなか家の形が完成しなかったらしい。強度不足を補うためにアクリルの骨組みを用いてようやく“上棟”を済ませ、それからは楽しい作業だったとのこと。屋根部分などには市販品も用いられているらしいが、大部分は伴氏が作られたお菓子で構成されている。庭部分の格子模様はすべて色違いの小さな正方形のクッキーを焼き、敷き詰めていったというから根気の要る作業だ。庭に置かれたテーブルの“猫脚”も伴氏の手作りとのこと。「ぜひ、後ろも見て欲しい」とおっしゃるので背後に回り込んでみると、後ろ側の壁に設けられた窓に色鮮やかな“ステンドグラス”が嵌め込まれている。飴でできているという。見事なものだ。ご自身も気に入っておられるのだろう。伴氏の了解を得てここに写真を掲載し、氏のお名前を出させていただいた。
「外交官の家」の2階、かつて内田定槌が書斎として使っていた部屋に、“お菓子でできた家”が飾られている。ドイツは「グリム童話」を編集したグリム兄弟の国だ。「グリム童話」の中の「ヘンゼルとグレーテル」に“お菓子の家”が登場することから、ドイツのクリスマスをテーマにした「外交官の家」に飾られているもののようだ。この“お菓子の家”、東京都内でケーキ教室を主宰しておられる伴真弓氏(リーフレットには「洋菓子研究家」とある)の制作による。訪れたとき、ちょうど伴氏が現場におられ、詳しい話を聞くことができた。この“お菓子の家”は当然のことだが(植栽などの一部を除いて)すべてクッキーなどのお菓子で出来ている。お菓子で家を作るというのは想像する以上に難しいと思うのだが、初めはすぐに壊れてしまってなかなか家の形が完成しなかったらしい。強度不足を補うためにアクリルの骨組みを用いてようやく“上棟”を済ませ、それからは楽しい作業だったとのこと。屋根部分などには市販品も用いられているらしいが、大部分は伴氏が作られたお菓子で構成されている。庭部分の格子模様はすべて色違いの小さな正方形のクッキーを焼き、敷き詰めていったというから根気の要る作業だ。庭に置かれたテーブルの“猫脚”も伴氏の手作りとのこと。「ぜひ、後ろも見て欲しい」とおっしゃるので背後に回り込んでみると、後ろ側の壁に設けられた窓に色鮮やかな“ステンドグラス”が嵌め込まれている。飴でできているという。見事なものだ。ご自身も気に入っておられるのだろう。伴氏の了解を得てここに写真を掲載し、氏のお名前を出させていただいた。
「ブラフ18番館」の飾り付けは「水の帝国」と題されている。川や運河によって発展したベルギーがテーマ国だ。リーフレットには「ベルギークラシックスタイルを2010年のアールヌーボーにのせて」とある。1階部分の白と青を基調にしたデザインの飾り付けは“水”を意識したものなのだろう。清冽な印象をもたらす飾り付けで、アート作品としてもたいへんに見応えのあるものだ。2階部分は1階とは対照的に赤いクロスを効果的に使った飾り付けがなされている。1階の飾り付けと2階の飾り付けとの印象の違い、その対比も面白い。
今年もまた見応えのある「山手西洋館 世界のクリスマス」だった。各館の飾り付けはそれぞれのコーディネーターの手によるもので、基本的に各コーディネーターのアート作品としての意味合いも持っている。またテーマとなっている各国の政府観光局や大使館などの協力、後援が得られているものも多く、各国の文化の紹介としても意義もある。開催期間中は各館でコンサートなど、さまざまなイベントも行われる。イベントの内容や開催予定については財団法人横浜市緑の協会による山手西洋館サイト(頁末「関連する外部ウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
訪れたときには最初に訪れた洋館で「山手西洋館 世界のクリスマス2010」の案内リーフレットをもらっておくといい。横浜山手地区のイラストマップが載せられており、横浜山手が初めての人にも便利だ。洋館は靴を脱いで入館するところが多く、訪れるときは脱ぎ履きのしやすい靴を履いていくことをお勧めする。また靴の履き間違いも少なくないらしいので、わかりやすいデザインの靴を選ぶといいかもしれない。
訪れたときには最初に訪れた洋館で「山手西洋館 世界のクリスマス2010」の案内リーフレットをもらっておくといい。横浜山手地区のイラストマップが載せられており、横浜山手が初めての人にも便利だ。洋館は靴を脱いで入館するところが多く、訪れるときは脱ぎ履きのしやすい靴を履いていくことをお勧めする。また靴の履き間違いも少なくないらしいので、わかりやすいデザインの靴を選ぶといいかもしれない。