鹿児島城の御楼門が2020年(令和2年)3月に完成した。明治初期に火災によって焼失した御楼門を復元したものだ。完成からほぼ半年経った八月半ば、鹿児島城址を訪ねた。
鶴丸城御楼門
鹿児島城(鶴丸城と通称される)は、天守を持たない平城で、城山の麓に築かれていた。1873年(明治6年)、火災によって本丸が消失、1877年(明治10年)には西南戦争によって二の丸も消失した。城の表玄関である御楼門も本丸と共に1873年(明治6年)に消失した。それらの建物はその後再建されることなく、堀や石垣に往時を偲ぶことができるだけだった。その御楼門が、2020年(令和2年)3月に復元され、堂々とした壮麗な姿が現代によみがえった。
鶴丸城御楼門
御楼門は鹿児島城の正門である。御楼門は木造二重二階の本瓦葺き、屋根には鯱が上げられ、鯱までの高さは約20メートル、国内最大級の城門だったという。その威風堂々とした姿は天守を持たない鹿児島城にあって城のシンボルとも言える存在だった。その御楼門も1873年(明治6年)の火災によって本丸と共に消失し、再建されることはなかった。御楼門の復元は、鹿児島の人々の長年の願いだったのではないか。
鶴丸城御楼門
御楼門の復元は民間主導で始まった。復元へのプロジェクトは2013年(平成25年)頃から本格化、県民有志と経済団体によって発足した「鶴丸城御楼門復元実行委員会」と県によって「鶴丸城御楼門建設協議会」が設立されたのが2015年(平成27年)のことである。それから種々の手続きや設計などを経て2018年(平成30年)に起工、2020年(令和2年)3月に完成した。官民一体となって勧められた一大事業だった。
鶴丸城御楼門
御楼門の復元工事の総工費は約10億9千万円、このうちの約6億2千万円が民間からの寄付だったという。復元は史実に基づいて実施しつつ、遺構を保存する取り組みや耐震・強度を保つ工夫もなされている。設計図は残っていないため、現存する2枚の写真などを参考に作業が進められたという。かつての御楼門は本瓦葺きだったため、復元に際しても発掘調査で出土した瓦を元に新たな瓦が製作されている。
鶴丸城御楼門
工事に当たっては鹿児島県と姉妹県盟約を締結している岐阜県からケヤキの提供を受けている。江戸時代中期、薩摩藩は木曽三川流域の治水工事、いわゆる宝暦治水を行っている。徳川幕府によって命じられたもので、かなりの難工事だったらしいが、このお陰で流域の洪水被害は少なくなり、人々は従事した薩摩藩士を「薩摩義士」と呼んで敬ったという。その業績が縁で、鹿児島県と岐阜県は1971年(昭和46年)に姉妹県盟約を締結しているのである。
鶴丸城御楼門
復元された御楼門は堂々として立派なものだ。かつてはこの奥に本丸があり、藩主の居館があった。今は鹿児島県歴史資料センター「黎明館」が建っている。黎明館側から御楼門を見ると、その背後に桜島の頂上部が見える。鹿児島らしい風景だ。新たな鹿児島のシンボル、新たな観光名所の誕生と言っていい。かつて御楼門を出入りしたであろう薩摩藩士の姿を想像しながら、往時の鶴丸城に思いを馳せるのも一興。鹿児島観光の際にはぜひ訪ねておきたい。
鶴丸城御楼門
参考情報
交通
御楼門へ訪れるにはバスや市電を利用するのが便利だ。

路線バスの「薩摩義士碑前」バス停が至近だが、より運行路線の多い「市役所前」バス停や市電の「市役所前」電停を利用してもいい。「市役所前」のバス停や電停から御楼門まで数百メートル、徒歩で数分というところだ。

車で訪れる場合は市街地に点在する民間駐車場を利用すればよいが、御楼門周辺には少ない。市街中心部の市電の路線近くなど、立地の便利な駐車場を見つけて車を置き、そこから市電やバスを利用するのが賢明だ。黎明館も見学する場合は黎明館の駐車場が利用できる。

遠方から車で訪れる場合は、九州自動車道や国道3号、国道10号などを利用して鹿児島市街中心部に入り、駐車場を探そう。

飲食
御楼門の周辺には飲食店が少ない。天文館へ足を延ばせばさまざまな飲食店があるから、天文館へ移動して飲食店を探すのがお勧めだ。


周辺
御楼門前を通る国道10号は「歴史と文化の道」と名付けられた散策ルートだ。御楼門から照国神社まで散策を楽しむといい。

鶴丸城址西側は城山だ。城山公園の展望台からの眺望は必見だ。徒歩で登るのは少しばかりつらいから周遊バスを利用するといい。周遊バスを利用すれば城山までバスで上れる。城山の麓には西南戦争の際に西郷隆盛が籠もった洞窟や「西郷隆盛終焉の地」などがある。併せて訪ねておこう。

御楼門から南へ辿れば1km足らずで天文館と通称される繁華街だ。アーケードの連なる商店街を散策してみるのも楽しい。天文館からさらに西南側へ足を延ばせば加治屋町、甲突川の左岸に沿って「維新ふるさとの道」という散策路が整備されており、一角に「鹿児島市維新ふるさと館」が建っている。

御楼門横の「城山入口」交差点から東へ1kmほど辿ると鹿児島港の桜島フェリーターミナルに着く。桜島フェリーは昼間は15分間隔で運行し、鹿児島港と桜島を約15分で繋いでおり、桜島へも気軽に渡ることができる。フェリーターミナル横の「いおワールドかごしま水族館」やウォーターフロントパークも訪ねてみたい。

北へと足を延ばせば石橋記念公園仙巌園といった観光名所がある。徒歩では少し距離があるが、これも周遊バスを利用すれば便利だ。
城跡探訪
鹿児島散歩